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東京地方裁判所 昭和34年(タ)50号 判決

原告 浅野きみ

被告 宮川信義

主文

原告と被告との間に親子関係の存在することを確認する。

訴訟費用は全部被告の負担とする。

事実

原告は主文同旨の判決を求める旨申立て、その請求の原因として、

一、被告は戸籍簿上は原告の父母である亡宮川謙次郎亡宮川しなの二男として記載されているが真実は右両名間の子ではなく、原告と現在の原告の夫浅野勝との間に出生したものである。

即ち原告と右勝とは従兄妹の関係に在るものであるが、両名は昭和十七年春頃東京都内において同棲して肉体関係を結ぶに至り、その結果原告は勝の胤を宿したが、従兄妹同志の血族関係に在つて結婚することは好ましくないので離別することになり、原告は単身茨城県下の実家に帰り昭和十八年十月十一日被告を分娩した。而して原告の父謙次郎は当時被告を私生子とするに忍びず、又原告将来の結婚のことをも考え、昭和十九年七月二十日に至り被告を謙次郎と妻しなの二男として嫡出子出生の届出を了したものである。

しかし其の後原告と勝とはその間に既に子供まで出生したことではあり、結局結婚した方がよいとの双方の親達の諒解も得たので、昭和十九年十二月頃再び同棲をはじめ昭和二十一年十月三十一日婚姻の届出を了し、被告を手許に引取つて現在に至るまで養育している。

二、以上の如く被告は原告の子であり、その旨戸籍の訂正をしたいのであるが、謙次郎、しなは既に死亡し、右両名を相手どり親子関係不存在確認の訴を提起することができないので、原告と被告との間に親子関係が存在することの確認判決を得て右戸籍の訂正をなしたく、本訴請求に及んだ。

と陳述し、

立証として甲第一乃至三号証を提出し、証人宮川梅野、同木村綾子の各証言原告本人浅野きみの訊問の結果を援用した。

被告は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張の請求原因事実は全部之を認めると述べた。

理由

一、公文書であるから真正に成立したものと推定すべき甲第一、二号証(いずれも戸籍謄本)証人宮川梅野同木村綾子の各証言、原告本人浅野きみの供述を綜合すれば原告主張の請求原因事実を認めるに十分である。

而して本件の如き場合はその本来の法律上の身分関係を明確ならしめる方法としては、(一)子たる被告の側から母たる原告(又は実の父)に対して認知の訴を提起するか(即ち此の勝訴判決によつて法律上の身分関係が真実に合致して形成されると共に当該判決に基いて戸籍訂正が行はれる)又は、(二)母たる原告の側から子たる被告を任意認知するか乃至戸籍訂正の方法によることも可能である(但し此の(二)の場合には、その前提として、被告が亡宮川謙次郎及び亡宮川しなの二男として戸籍に記載されて居る以上之を先づ訂正する必要があり、此の戸籍訂正のためには、事柄が身分法上の重大な意義を有する関係上、確定判決を要すると解すべきである)。然して本件は正に右の(二)の方法に依るために提起されたものであつて、被告が原告の子である旨戸籍の訂正をするがためには、戸籍簿上被告の父母となつている謙次郎、しなの両名が既に死亡して居り、右両名を相手どり親子関係不存在確認の訴を提起することができない以上、原告と被告との間に親子関係の存在することを判決によつて確定する利益あるものと謂うべきであるから原告の本訴請求を理由ありとして之を認容する。(因に本判決は母子が当事者となつて其間に親子関係の存在することの確認を求める訴であるから、その性質は通常の民事訴訟事件でなくして人事訴訟事件に属するものと解すべく従つて此の判決の確定した場合は第三者に対しても効力を有するものと解するを相当とする)。

二、よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 鈴木忠一 田中宗雄 柏原允)

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